裏桜木町・野毛【LGBTに優しい街】

野毛について、私が教わったいくつかのこと

「元々は、ゲイの集う街だったのよね。野毛というところは」

店主さんは、野毛の歴史について、語ってくれました。

「お店に入ると、真っ先に『好みの相手』を探すの。そして、もしそういう相手がいなければ、一杯だけ飲んで次のお店に探しに行く。相手が見つかって意気投合すれば、そのまま追加注文をするか、別のお店に連れ立って行く。だから、一杯だけ注文してすぐにお店を移る、という文化が根づいているのね」

そういうお話を聞きながら思ったことは、ここでは「性的嗜好」によってよりも、「お酒に酔っている」か「素面」かで「区別」される。
言ってしまえば「酔者の街」なのかな?ということでした。

そして、少しずつ、最初はTさんとだけ会話を楽しんでいた「先客さん」たちが、素面の「よそ者」である私を受け入れてくれ、人と人とのおしゃべりを楽しむことができました。

「愛を信じたい」

ぼそっと、先客のひとり、Kさんが呟きました。

「その愛が、一晩限りのものでも構わないし、ボク自身について言えば、相手が男でも女でも、そのどちらでもなくても構わない。とにかく愛がほしい。人同士がお互いを信じられる瞬間があれば、ボクはその相手がたった今、人を殺して来た人でも構わない」

「そうかな?ワタシは男に限るけれどもね」

そう異論を挟んだのは、店主さんでした。

「もちろん人それぞれ、っていう部分は一番尊重しなくちゃいけない部分なんだけれどもね。ワタシは一度、普通に結婚もしているし、孫までいる。女がキライっていうわけじゃないけれども、恋愛の対象としては、満足できなくなっているのよね」

「こういう商売をしていると、こっち側の、いろんな子の相談を受けるから、なんとなく見えてきていることがあるのよ」

「ほぅ。聞かせてもらおうかな」

私がよく知るTさんの力強い声が、お店の奥の方から聞こえてきました。

「Kちゃんがさっき言ったように、一番大きいのは『愛』だと思うの。愛の大きさ。愛の量。求める愛の」

「Kちゃんは、女と付き合ったこと、たしかないのよね?」

Kさんは寂しそうに頷きました。

「Kちゃんがもし、女との経験があって、それからこういうことを始めたのだとしたら、やっぱり男が恋愛対象になるんじゃないかと、ワタシは思うよ」

「誰からの愛も感じられない、ということが耐えられなくって、自分から愛を拡散してゆく。それが、LGBTもノンケも含めた、『愛を求める人』だと思うの」

「だから、LGBTとかの性的嗜好って実は二の次で、大切なのは、愛を拡散することなのよ。LGBTの反対は、ノンケじゃなくて、自分から愛を拡散しない人。しようとしない人。しなくても生きていけちゃう人」

「マイノリティという意味では、自分の性的嗜好や性自認がどうのじゃなくって、『どちらでも耐えられる』『社会に合わせられる』人たちがマジョリティを形成しているのであって、そこに葛藤を抱いてしまう子。『自分はこうあるべき』という想いを、社会に逆らっても貫きたいと思う子が、LGBTと呼ばれるようになるってこと」

「自分を貫く思いって、それこそが『愛の力』じゃない?Kちゃんはおとなしくって、優しくって、ワタシ大好きなんだけど、そういう強さが自分の中にある、ってことは、もっと自信にしていいと思うよ」