トランスジェンダー 【かつてFtMだった方と会った時のこと】
かつて FtMだった男性を対応した時のこと
トランスジェンダーの方を知るためには、「身体の性」と「心の性」を念頭に入れなければなりませんが、私の働いている「役所」では、「戸籍上の性別」が重視されます。
戸籍の性別は、いくつかの条件を満たせば変更することが可能です。「女性に見えたお父様」を対応してから、その後、戸籍の性別を変更した方にもお会いしました。
一番印象に残っているのは、女性から男性になった方(元FtMの方)を対応した時のことです。その方の持っていた公的な書類の記載が、以前の「性別」と「氏名」のままになっているものを書き換える作業を行いました。その方は、女性から男性になったため、氏名も男性的なものに変更されていました。
その方との関わりとしては、窓口で少し事務的なお話をした程度でしたが、実際にその方の書類に新しい性別や氏名を記す作業に入ろうとすると、ペンを持つ私の手が震えていました。
職業柄、戸籍の性別を変更するための条件についての知識があります。条件はいくつかありますが、「生殖腺がないか生殖腺の機能を永続的に欠く」ことや「性生殖器の外観が他の性(変更をする性)に近似している」などがあります。この条件をトランスジェンダーの方が満たすためには、手術を受ける以外に方法がありません。
手術を受けなければならないこと以外にも、これまで当事者の方が社会生活を送ってきた中で、身体と心の性が異なっていることで感じた葛藤や、世間の偏見の目など、生きづらさを感じる場面はたくさんあったでしょう。望む性の外見に近づけるためにホルモン治療もしていて、その副作用に苦しむ人もいるそうです。
目の前にいる「男性」は、自分の望む性で社会で生きていくために、どれほどの代償を払い、どれほどの困難を乗り越えてきたのだろうと考えると、彼の「性別」や「氏名」を書き換える作業にとても重責を感じましたが、震える手をなんとか落ち着かせて、慎重に記載しました。
トランスジェンダーの方が戸籍の性別を変更してできること
トランスジェンダーの方が戸籍の性別を変更することには、アイデンティティのためという以外にも意味があります。
例えば、性別変更前はパートナーと戸籍上は同性同士だった方は、性別変更で異性同士となるため、結婚することが可能になります。
現行の法律では、日本で同性婚が認められていないため、トランスジェンダーの方は性別を変更しないままでは、パートナーの性別によっては結婚ができません。(パートナーの戸籍上の性別がもともと異性であれば当然可能です)
日本の法律では、婚姻関係がないと認められない権利が多くあります。
例えば、相続の関係や、生命保険の受取り、医療機関の代理手続き、扶養控除の関係などが挙げられます。
特別養子縁組も結婚していないと組めません(特別養子縁組より法律的繋がりの弱い普通縁組であれば婚姻関係がなくとも可能です)。
戸籍の性別変更の条件では生殖能力がないことの外、「未成年の子がいないこと」などの条件もありますが、結婚すれば特別養子縁組というかたちで、法律上実子と変わらない子どもを持つことが可能になります。
多様な生き方ができる時代を
先ほど、トランスジェンダーの方が性別を変更してできることをお伝えしましたが、決して性別を変更することを推奨しているわけではありません。
むしろ、当事者の方が身体にメスを入れなければ享受できない権利がこんなにもあることを残念に思う、というところが私個人としての本音です。
私が出会った、「かつて女性だった男性」は書き換えが終わった書類を手にした時、とても晴れやかな笑顔でした。
役所にとっては、現在の性別・氏名を公的書類に記載することは当然ですが、これらを勝ち取ってきた彼にとっては特別なものです。
彼には、戸籍の性別を変えてできるようになったことを存分に利用して欲しいですし、今後さらに幸せな人生を歩まれるよう切に願います。
しかし、できるならトランスジェンダーの方が手術を受けなくても、希望が叶う生き方ができれば、どれほど良いかと思います。
現在、新たな取り組みとして、全国の自治体でパートナーシップ制度が広がりを見せています。
現行では法的な拘束力はありませんが、宣誓したパートナー同士であれば、一部の医療機関などで家族として扱ってもらえる場合や、賃貸契約などで家族限定の物件が契約できる可能性があることや、ある生命保険会社では保険金の受取が可能になったなど、これまでできなかったことが実現しました。少しずつではありますが、多様な生き方ができるように日本の社会は変わろうとしています。
今回の出会いから、トランスジェンダーの方やLGBTの方たちはもちろん、すべての人が自分らしい生き方を選択できる時代になっていって欲しいと改めて感じました。
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