トランスジェンダーの扱われ方と治療について

治療について

上記のようなトランスジェンダーを治療するという考え方については、決して少なくない誤解や、偏見が背景にあります。
生物学上の性別と性自認の不一致に苦しむ人たちについて、外科手術などで自分の心が認めている性別と一致させることは、その人のい生き方、人生をより良いものにするために必要な行為であり、当然認められて然るべきものであります。
医療が社会からの要請されている治療を望む者(自律尊重原則)に、適切な治療を行うこと(善行原則)に基づくと考えられ、医療倫理の原則にも適ったものであると考えられます。
一方で、生物学上の性別と性自認が一致していなくても、一致させることを望まない人たちに、治療を行うことは、上記の原則にも反します。
そして何よりも、一致しないあり方を望む人たちの生き方・価値観が存在します。性別に対して流動的であったり、どちらでもないと感じる人たちなど、多様な生き方・価値観があり、そのような多様性を表すのがトランスジェンダーという概念であり、そうした多様な生き方・価値観を認め合える社会を背景にした概念であると考えられます。
そういった点から、トランスジェンダーに対して、治療を必要とするという一括した考え方は、誤解であり、トランスジェンダーの中には、治療を望む人がおり、その人の望みと治療によって得られる変化がその人の望む生き方に沿うものであれば、治療の選択もあり得るというのが、本来の認識であると考えます。

最後に

上記のように、トランスジェンダーという概念は、広く知られるようになりつつあっても、その本来の対象や含意する意味については、未だ浸透しているとは言い難いと考えられます。
トランスジェンダーを性自認の概念としてではなく、生き方の多様性、価値観の多様性としての概念として根付かせるためには、まだ啓蒙活動や正しい知識の発信が欠かせません。
また、医療界からも治療を必要とする対象として、性同一性障害の基準やトランスジェンダーとされる生き方との違いを広く発信していくことで、現在ある誤解を解消する手立ての一つになると考えられます。
多様な生き方や価値観を認め合う社会の実現のためには、自分と他者の違いを理解し、お互いを尊重し合いながら(時に折り合いながら)共に暮していくことを模索することが大切です。
そのために、広くこの概念が知れ渡り、また深く理解されることが、実現の一助になるのではないでしょうか。