トランスジェンダーの原因について【科学的な考察】

精神的ではなく、生物学的な要因

生物学的な性と性自認が異なる人々はトランスジェンダーと呼ばれ、差別の対象でもありました。
しかし、昨今はLGBTの権利を主張する運動が活発化し、一部の国や州で同性婚が認められるなど、トランスジェンダーへの理解は深まっているといえます。
そして、オーストラリアの遺伝学者であるJenny Graves氏は、「トランスジェンダーは環境が原因ではなく、遺伝が原因である可能性が高い」と述べています。

幼児期なら、男の子が可愛い服を着たり、女の子が男っぽい遊びに熱中することも稀ではありませんが、成長するにつれて男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしくすることが求められるようになります。
子供たちにとって、好きなように振る舞えないことは大きな苦痛やストレスとなり、大人になっても「自分は生まれる性を間違えた」と大半が感じており、手術などで性別を変える人もいます。

そういった経験を語る人は増えていますが、それでも差別が完全に消滅したわけではありません。

このような差別は、「トランスジェンダーは後天的な物が原因である」「そういう人たちは、何かがおかしい」という意識がベースとなっていますが、Graves氏によると、トランスジェンダーは精神的な物より生物学的な物が原因であることが分かってきたというのです。

SRY遺伝子が原因?

1988年に、Graves氏の研究室に、精神科医であるHerbert Bower氏が訪れました。
Bower氏は、当時話題となっていた性別適合手術を承認しており、同性愛者のコミュニティから尊敬を集めていました。
そんなBower氏は、「トランスジェンダーは生物学的な物が原因ではないか」と考えており、それを調べるために遺伝学者であるGraves氏のもとを訪れたのです。

Bower氏は、男性の発育をコントロールするY染色体上の遺伝子「SRY遺伝子」に着目しました。
SRY遺伝子は、分化していない生殖腺を精巣へと導く役割を持っており、精巣で生成されたホルモンが男性への性分化を促進します。

Bower氏は、トランスジェンダーの男性はSRY遺伝子が正常に機能していないのではないかと考えましたが、残念ながら直接的な関与は見出せませんでした。

その後の研究でも、性決定に関与する遺伝子の変異がトランスジェンダーの原因だということは立証されませんでしたが、こういった動きによって「トランスジェンダーは環境が原因ではなく、遺伝子が原因ではないか」という考えが広まったのです。