人権侵害では?トランスジェンダーの戸籍変更に伴う問題

トランスジェンダーの戸籍変更の要件

自分の性自認と戸籍上の性が異なっていることによって、トランスジェンダー当事者は様々な場面で不便な思いをしたり、差別を経験しています。
しかし、現在の日本の法律では、戸籍変更して性自認の性別にあわせることには非常に大きなハードルが伴います。
2003年に成立した「性同一性障害特例法」で、トランスジェンダー当事者が戸籍変更をすることは可能になりました。
その際に、以下の5つの要件を満たさなくてはいけません。
1.20歳以上であること。(2022年から、成年年齢の引き下げによって18歳以上となります)
2.現に婚姻をしていないこと。
3.現に未成年の子がいないこと。
4.生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠くこと。
5.その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
とくに大きな問題があるのは、外科的な手術を伴う4と5の要件です。
必ずしもトランスジェンダー当事者のすべてが性別適合手術を受けたいと考えているわけではなく、実際に手術を受けた人の中にも、戸籍変更のためにやむを得ずという人も少なくありません。
性別適合手術には、大きな肉体的、精神的、経済的なリスクが伴います
。MtFの人が自らの精子を使って子どもが欲しいと思っても、生殖能力を失わせる手術のために、不可能になってしまいます。

性別適合手術を求める要件、国際的には?

トランスジェンダーの戸籍変更に外科的な手術、それも生殖能力を失わせるような手術が必要とされることは、人権侵害の問題があると国際的な批判が高まっています。
2013年、拷問に関する国連特別報告書は、トランスジェンダーの人々が「多くが希望しない不妊化手術(断種手術)を課されている」ことが人権侵害であるとして、各国政府にこのような措置を禁止するよう求めています。
国際的には、かつては日本と同じ要件を設けていた国も多くありましたが、現在では手術要件を撤廃している国も増えてきています。
2019年の調査では、欧州49か国のうち28か国が手術要件を設けていないことが分かっています。
日本では2019年に、トランスジェンダーの戸籍変更に生殖能力がないことを要件とする規定が憲法違反でないかとする裁判が最高裁で行われて注目されました。
判決は「現時点では合憲」とされましたが、「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見が出されており、手術要件についての今後の議論の必要性や可能性を示すものと評価されました。